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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

と、呼延灼の姿を敵の中軍近くまで追っかけて行ったがもう見えない。寄りたかって来るのは、打っても張合いのない雑兵ばかりだ。

「木っ葉どもめ、花栄さまのお通りだ、そこ退け、そこ退け」

蹴ちらしつつ自陣へもどって来る途中だった。はしなくも燦然たる一将を見かけた。天目将軍の彭にちがいない。三尖刀と称して四ツの孔に八つの環がさがっている大刀に血のしたたりをみせ、千里駿足の黄花馬をせかせながら、

「ざまを見さらせ!」

と、逃げなだれた泊兵の勢を後目に自陣の方へ帰りかけるところだった。――それを見ると、休んでいた林冲がまた馬を躍らせて来て。

「待った。彭」

「や、うぬは」

「林冲」

「げッ、あの豹子頭か。高大臣ににらまれて、滄州へ流され、終身刑で刑地にいるはずの、あの林冲かよ」

「悪大臣の番犬めら。驚いたか」

「しゃッ、この日蔭者」

「日蔭者、痩せてはおらんぞ」

「高総理へよい土産だ。かッ、そのそっ首を」

「しゃらくさい」

ふたりは花栄を入れなかった。馬と馬をめぐらし合い、閃々の光芒をまじえ合った。

あたりの残雪は黒い飛沫となって、ふたりのよろい、かぶと、またその面までを胡麻のようにした。