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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
開封郊外の離宮“龍符宮”から十里の野は、御狩猟の行幸に染められて、壮観な狩場の陣がいちめん展開されていた。
皇帝のお野立ち間近には、総理兼近衛大将高の陣と彼の床几がある。そこへ、
「お願いにござりまする」
と、九拝して伏した一武士が見えた。
「お、金鎗班の徐寧ではないか。何だ願いの儀とは」
「ご遊猟中を、供奉の一員として、恐懼にたえませんが、ただいま家より急な使いがございまして、妻が急病の由、告げまいりました。家族とては召使のほか、幼児一名あるのみ。数日の賜暇をおゆるし願わしゅうぞんじ奉りますが」
「なに、妻女が急病だと。それはいかんな。君辺はさしつかえない。すぐ戻ってみてやるがいい」
徐寧は再拝してひきさがり、あとは班の各組頭に頼んで、ひとり城の都門へ向って、金鎗を小脇に手馴れの馬を飛ばして帰った。
その間とて、彼の血相はただならない。妻の急病とは、公へのてまえで、じつはかけがえない家宝の紛失を妻から知らせて来たのである。
寝耳に水だ。彼の華やかな紫の狩衣、紅錦の陣半被、纓に飾られた冠といえど、蒼白なその憂いにみちた面には、すべて、悲調を強めるものでしかなく、珠を失った龍か、瑞雲を奪われて荒地に怒る鳳凰にも似て、焦躁、狼狽、哀れといっても言い足りない。