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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「こら、ちょっと訊くが、奉行所はどこだ、ここの奉行所は」
と、道行く者をつかまえては訊ねていた。
すでにその権まくからして只ならないものがある。往来の者は、呆ッ気にとられて、
「なんだろう、あの風来坊は?」
と、目をそばだてた。しかもちょうどこの日、当の奉行の賀は、街をお練りで帰って来る途中にあったが、たれも花和尚にそれが奉行だとは教えてやる者もない。
奉行は綺羅な輿轎に乗ッていたのである。輿ワキには護衛の力士が鎗を持ってつきしたがい、騎馬の与力がそのあとさきを守って往来の邪魔者をいちいち叱咤しながら行く――
これがやがて州橋の上までかかると、輿の垂れ絹の内から奉行の賀が、
「ちょっと、待て」
と、急に列を止めさせていた。そして与力の一人をそば近く呼んで。「……途々、異形な坊主が列のあとから尾けて来るようだが知っているか」
「はっ。不審な奴と見、油断はいたしておりません」
「いや、それよりもだ、いッそこうせい。……よいか、抜かるなよ」
どんな策をさずけられたのか、その与力は、馬を力士の一人に預け、あとへ戻って、花和尚の前に立ち、いやにていねいに、こう言ったものである。