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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「巽とはまた、方角が悪いじゃありませんか。泰安州へ行くには、どうしたって、梁山泊のそばを通ることになる」
「はははは。噂のたかい梁山泊か。世間は恐れているらしいが、わしからみれば程の知れた草賊だよ。ま、水滸りの蛙も同然さ」
そこへ、楚々と、盧俊儀の妻の賈氏が、屏風を巡ってあらわれた。李固や燕青と共に「――そんな遠出の旅は、思いとまっていただきたい」と、すがるばかりに止めるのだった。
嫁いできてまだ五年たらず、二十四、五の美人であった。
だが盧の大旦那は、この妻のいさめにさえ、意をひるがえす色はない。また燕青はしきりに、旅先の方角が気になって仕方がないらしく、「では、ぜひもございません。が、供人には、ぜひこの燕青を連れて行ってください」と、執こく頼んだ。けれど、これもまた、
「あきないは、李固でなければわからない。おまえは留守しておれ」
と、一言の下に、しりぞけられてしまった。
ところが、選ばれた番頭の李固とくると、どうも彼は、旅の供をよろこんでいる風ではない。主人の身よりは、自分の都合か。「……じつは、このところ、ちと脚気の気味で……」などと渋りだしたものである。