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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「盗賊の道をか! くそでもくらえ」
「仰っしゃったな。花栄、客人はまだお目が醒めぬらしい。一ト矢、ご馳走申せ」
そばにいた小李広の花栄は、これを聞くと、手馴れの弓に矢をつがえて、はッしと放った。花栄の神技、狙いはあやまたず、盧俊儀がかぶっていた羅紗笠の緋纓をブンと射切った。
これには盧も大いに驚いて、足は無意識に逃げ走っていた。すると突如、山が震い鳴った。鼓声、鬨の声である。――そしてなお逃げまどう先々の途でも、豹子頭の林冲、霹靂火の秦明、金鎗手の徐寧などが入りかわり立ちかわり、彼のまえに立ちあらわれて「見参っ」と叫び、また「ご挨拶――」と呼びかけ、各自が一芸一芸の武技をもって彼をさんざんに悩ませた。どうも、ひどいご挨拶もあったもの。
とまれ、いつか彼は渺たる水と芦のほとりへ出ていた。それや水滸の泊に近い鴨嘴灘とは知るよしもない。微かな星、ほのかな月、小道をかきわけ掻きわけ、茫と、いちめんな芦の花に行き暮れていると、
「旅の衆。道に迷ったのかね」
と、一そうの小舟の櫓音、そして、小舟の上からその漁師がなおもいう。
「……迷ったものなら仕方ねえが、なんだってこんな所にぼんやりしていなさるのかい。