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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
禁門のいずこでも咎められはしなかった。けれど深殿のおもなる所はみな錠がおりているので立入ることはできない。そのうちに凝暉殿の廻廊の橋からふとみると、
叡思殿
という金文字の額が仰がれ、ふと見れば、そこだけは朱の障子が開かれている。
「あ。天子のご書見の間だ」
柴進は、われも忘れて、人なき玉座を巡ってみた。お机には、端渓の硯、龍華紋の墨、文房具の四宝、いずれも妙品ならぬはない。そして「大宋国山川社稷之図」という大きな構図の絵屏風が立てめぐらしてあり、屏風の裏面は白無地だったが、ふと、柴進がそのうしろにまわってみると、何と、国内四人の大寇(むほんにん)として、天子直筆で、四名の名がしるされていた。
山東宋江 淮西王慶
河北田虎 江南方臘
「……ああ」
柴進は、眺め入った。
「われわれが国をさわがすので、つねにこうまで、み心にかけておられるのか」
彼はすばやく短刀をぬいて「山東宋江」の四字だけを切り取り、さっと内苑から姿をくらまして、元の酒楼へと帰って来た。
「燕青、階下の帳場へ行って、すぐ勘定をすましておけ。そして、みせの者たちに、祝儀をやって、あとに一人残しておくが、こうこうなわけでと、そこはおまえの口でうまく」