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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
蘭燈の珠の光や名木のかそけき香いが、御簾ごしに窺われる。やんごとないお人の影と向いあって、李師々の白い横顔も紗の中の物みたいだった。そして折々、中庭の暗がりへ男女の囁きだけがこぼれていた。
「天子さま。きょうは、上清宮へお詣り遊ばしたのでございましょう」
「そうだよ、宣徳楼では、毎年、万民の福祉と四季の天候を祈る式があるのでね」
「さぞ、おつかれでいらっしゃいましょう」
「終日、群臣にとりまかれて、くつろぐひまもないからなあ。せめてここへ来て、そなたとこうしている一刻ぐらいが」
「あれ、もったいのうございます。わたくしはうれしゅうございますが」
「いや、ほんとだ。でなければ、画院にこもって、絵筆を把っている日だけだね。自分が自分なりに居られる時は」
「いつかお絵を拝見させてくださいませね!」
「おおそのうちに何か描いてやろう。ま、いつもの葡萄の美酒に瑠璃の杯。ひとつそなたの白い手で酌いでくれぬか……」
中庭の木蔭にかがんでいた宋江は、このとき、胸もはずむ思いで、柴進の耳へ諮ってみた。
「天の与えだ。咫尺[#「咫尺」は底本では「呎尺」]へ進んで、直々に、われらの微衷とみゆるしを、おすがりしてはどうだろう」