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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

また桟敷そのほかも総立ちになる。

あとの格闘と混乱はもう形容のしようもない。――燕青危うしと見るや、さっきからすぐ舞台わきにいた黒旋風の李逵が、

「さあ、こんどは、俺の出番だ」

とばかり躍り出して、以来、我慢に我慢をしぬいていた持ち前の暴勇を奮い出したからでもある。彼と燕青が駈け廻るところ、まるで人間の木の葉旋風が飛ぶようだといっても決して過言でない。

すると、どこからともなく、

「梁山泊だ、梁山泊の人間だ。さっきの若いのも梁山泊だったに違いないぞ」

という声が嵐のように立ち初めた。それも当然で、この時、群集の中を割って、かねて燕青の身に万一があってはと案じて山寨から密かにこれへ来ていた――玉麒麟の盧俊儀、九紋龍の史進、魯智深、武松、解珍、解宝などの男どもと手下が、いちどに姿をあらわして、「もうよい、ここの目的は達した、一時もはやく山泊へ引きあげろ」と、殺傷を避けるべく、ふたりを守り囲んで泰岳の麓へ走り出していたからだった。

けれど燕青と李逵とは、旅籠に預け物をおいてあるので、

「それを取ってすぐ追いつきます」

と、途中で別れ、そして燕青だけは、すぐ仲間の一行に加わったが、どうしたのか、李逵だけは後ろに見えない。