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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

年ごろは三十四、五か。龍眉鳳目、唇あかく、いかにも洒々たる侠骨の美丈夫。背には一壺の狩矢、手に籐巻の弓をかいこんでいた。

「やっ。……ちょっと待て」

すでに行き過ぎんとしたせつな、柴進は急に振り向いて、従者の一人に、こういった。

「――あの道端に見える滄州行きの首枷人を、護送の端公に断って、ちょっとこれへ呼んでみい。……どうも、ただ人とも思われぬ骨柄だ。日々、滄州送りの囚人を見ぬ日はないが、あれなる男のような人態は見たことがない」

従者はすぐ走って、林冲と端公を、彼の前に連れてきた。

この一機縁が、やがて豹子頭林冲の運命を大きく変えたものとは、後にこそ知られる。――しかしその場では、名乗り合ったすえ、

「さては、わが目にたがわず、あなたは先ごろまで、禁軍ご師範役として、武林に名の高い林冲どのでおざったか。――わしのもとにいる食客や若い者でも、都にありし日、あなたの教導を受けたという話はかねがね何度も聞いている。……ともあれ、ぜひ今夜は、てまえの屋敷に一泊していただきたい」

と、伴われて、柴家の門を、何気なく潜ったまでのことにすぎない。

いや、その夜の歓待の宴でも、一挿話はある。