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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
柴進からの差入れ物はすべて、獄吏たちに分け与えていたから、彼だけには、別扱いの自由が黙許されていたわけだった。
時折、買物などしに、街へも出かける。
すると、ある日である。後ろのほうから「……もし、もし」としきりに呼ぶ声がする。そして、ひょいと振り返った彼の前へ、
「おっ、やっぱりそうだった。林師範さま、李小二でございますよ。……いったいまあ、どうしたわけで、こんなところへ」
飛びつくように寄ってきた町人姿の男があった。
「やあ、これは恥かしい。そちは以前、開封の家の近所にいた酒屋の手代ではないか」
「どうも、あのせつは、まことにご恩にあずかりました。今もって、女房ともよくお噂などして、忘れてはおりません」
「はて。なにか世話でもしたことがあったかなあ」
「若気とは申しながら、とんだ費いこみをやりまして、あぶなく主人から役所へ突き出されるところを、お助けいただいたことがございます。そのせつお立て替えくだすったお金すらまだお返ししてもおりませんで」
「なんだい、ずいぶん古い話じゃないか」
「まあ、それはともあれ、ちょっと手前どもまでお越しくださいませんか。その後、面目なさに、主家を離れ、流れ流れて、この滄州くんだりまで来てやっと落ちつき、いまでは、小さい飲み屋をやっておりますんで。