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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

といったとたんに、李小二はぎょっとした。どうも都で見た顔だと思ったら、その赤っ面のほうは、たしかに高大将軍家の副官陸謙。

はて、こいつア何か? ――と直感したので、女房を客のおあいそに出し、酒、料理などの註文を聞いたり、それとない雑談を、厨房窓からきき耳たてて窺っていると、やっぱり開封弁だし、またしきりに高将軍だの、高家だのという囁きが飛びだしてくる。

それはまだいい。ところが、そのうちにだ、

「――おい、店のおやじ、途中から使いは出してあるが、やがてほどなく、牢城営の管営(奉行)と差撥(牢番長)がこれへ見えるんだ。そしたら、後の客は、入れてはならんぞ。店は買切りにしてやるからな」というご託宣。

果して、まもなく、管営と差撥がやってきた。

料理を増し、酒を加え、しばらくは、さり気なく飲んでいる様子だったが、そのうち笑い声もやみ、急に、ひっそりしてしまった。

李小二は、女房の尻を突ッついて、耳打ちした。彼女は眼でうなずいて、そっと、料理場と店の境にたたずんで、聞き耳を澄ました。奥では李小二が、眼を凝らしている。そのうちに、女房の腰から足の辺がわなわな慄えだしてきた……。