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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
呟きながら、小屋の錠をおろして出ていった。
大陸特有な魔の白夜。
積雪は沓をうずめ、朔風は横なぐりに地を掃いて、咫尺もわからない。息はつまるし、睫毛には雪片が氷りつく。
「おや、何の古廟だろう?」
半里ほどきて、ふと息を休めた道の傍ら。道祖神やら何の廟やら知れないが、林冲の心に、ふと仏心でもうごいたのだろうか。ひたと、雪中に額ずいて、
「そも前世の宿業にや、林冲、罪のおぼえもなきに、この獄地に流され、かくのごとき、生ける醜骸となっております。あわれ、なにとぞご加護あらしめたまえ。遠き都にあるわが妻をも護らせたまえ」
と、口のうちで祈念して、やがてまた、歩きだした。
やっと辿りついた小部落の酒屋で一ぱいひっかけ、さらに瓢箪には酒、ふところには焼肉の包みを抱き、やがて帰り道についたころは夜も更けていた。雪はいよいよ烈しく、風は足に逆らい、満身これ飛雪の姿で、笠のつばを抑えつつ、もとの馬糧廠まで馳けもどってきた。
そして何気なく、例の観音開きの木戸口を蹴開き、内へ入ってみると、こはいかに、他のまぐさ小屋は無事なのに、自分の寝小屋の一棟は、雪の重さに圧し潰されたのか、見事、ぺしゃんこになっている。