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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「卑怯者っ。なにをほざくか」
すでに、林冲の豹眉は、彼本来のものに返っている。豹身低く、短槍の一閃また一閃、富安を突き刺し、あっというまに管営の大きな図う体も串刺にしてしまい、つづいて雪の中を逃げまろぶ陸謙の影へ向って、
「佞物。どこへ行く気か」
びゅんと、手の槍を征矢のように投げつけた。槍は彼方の背に立ち、異様な絶叫をツンざいて、夜目にも鮮らかな血の色がぱッと四方を大きく染めた。
「ああ、ついにおれは四人の軍官吏を殺した。宋朝のもとでは、いまは身を容るるところもない犯人となった」――林冲はみずから慄然としたが、身を翻して廟の前に額ずき、武神の像に礼拝して独り何度もいっていた。
「思うに、もう宵のうち、まぐさ小屋が仆れていなかったら、この林冲は彼らの悪計どおり、梁の下に圧し殺され、さらに焙り殺されていたかもしれません。それが助かったのは、廟の神意と存ぜられる。まさに、天のお助けだ。この先とも、林冲を護らせたまえ」
そして、朱房の短槍を持ち直すやいな、夜の明けぬまにと、雪を蹴立てて、その場から姿をくらました。
馬糧廠の火の手も、この積雪で、まもなく下火にはなったらしい。