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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

と、男は林冲が、硬直したのを見て笑った――

「生命は惜しいし、荷は欲ししか。やい盗賊、荷物の男に代ってその荷を担ぎ、町のあるところまで、身どものお供をして行くなら、そこは人情、酒の一杯ぐらい、飲ませてやらぬ限りもないぞ。ばかめ、どっちを撰ぶのだ」

「むむ、見受けるところ、貴様はただの素町人ではないな。武士だな」

「おおさ、いまでこそ浪々の身だが、昨日までは、五侯の一人楊令公の末裔として、徽宗現皇帝の旗本にも列せられた武士中の武士だ。もしそれだったら、どうだというのか」

「よしっ、その首、もらった」

「なにッ。ふざけるな」

ほとんど同時。白光を噴いた双龍にも似る二人のあいだに、鏘々として、火花が散った。しかし彼の長剣も、林冲の長巻も、幾十合となくその秘術を尽しあったが、どっちも、相手の一髪すら斬ってはいない。果ては鍔ゼリとなり、相互ともに息あらく、ただの毛を汗にするばかりだった。

すると小高い所から、突然、声がかかった。

「やあ、待ち給え。林冲の三日の約はそれでいい。旅のお武家にも、どうぞ刃をお引きください」

誰かと見れば、日限切ッての約束した林冲の様子いかにと、それとなく見にきた白衣秀士王倫、杜選、宋万、そのほか梁山泊の手下数十人の群れだった。