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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「だって、こう休みなしじゃあ、息もつづきません。どこか木陰で、一ト息つかせておくんなさい。焦死にます」

「だまれ、どんな夏の旅だろうと、人間の乾物ができた例しはない」

「うへッ。もう眼がまわる。楊輸送使」

「なんだ」

「どうか、弁当でも解かせておくんなさい。もう足が前へ出ません。ふらふらして」

「ちッ。きさまらは、木陰を見るたび、きまッて何か弱音を訴え出しゃあがる。今日はもう幾日だと思う」

「ほら、始まった。わかってますよ」

「わかっていたら、弁当などは、歩き歩き食え、七月十五日が一日遅れても、蔡大臣のお誕生祝いには間に合わなくなる。千日の萱も一日で焼くというもんだ」

「もう欲も得もなくなりました」

「じゃあ、死にたいか」

「情けないことを。これでも、女房子がありゃこそ、塩気のない汗までポタポタ垂らしているんですぜ」

「ならば、四の五をいわずに歩け歩け。やがて都へ着いたら、たらふく、飲んで食って、逆立ちでも何でもやるがいいや」

「……ああ、雨でも降ってくれ!」

ところが、あいにくな旱天つづき。大夏の太陽は火龍というもおろかである。満天すべて熱玻璃のごとく、今日も一片の雲さえ見あたらない。