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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

さあさあ退いてくんな、退いてくんな。きょうはろくな日じゃねえようだ」

「まだ怒ッてるのかい。もう勘弁しなよ、謝るからさ」

「うるさいよ。お前さん方に謝ってもらう筋はないんだ」

「依怙地だな、ひどく」

「ああ依怙地だよ。悪かったね」

「あれだ。……こんなに、銭を集めて、拝むように頼んでるのに、罪だぜ、このまま置いてきぼりは」

「離さねえのか。困ったな。ええい、もう、そんなに飲みたけれやあ、勝手にさらせ」

「そうはいかないよ、銭五貫、それ、ここへおくぜ」

「五貫じゃないよ」

「えっ、値上げか」

「ばかにするない。残りの桶は、さっきの棗商人が、幾椀か手込めにして、飲んだらしいから、減った分だけ、値引きするしかしようがないじゃないか。四貫でいいよ。一貫文だけ銭を引ッ込めなよ」

「なるほど、正直もンだな、おめえさんは。いや見上げたよ」

近くに転がッていた椰子椀を拾って、兵たちはさあ順番だと、桶のぐるりに真剣な顔を集めた。

――舌つづみが鳴る。喉がキュッという。礼讃、嘆声、随喜のよだれ。まさに亡者に囲まれた天泉の図であった。

「やい、やい。先のやつは、もういい加減にしろ。執事さまをお後に廻しておくやつがあるもんか」