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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「くたばれ、くたばれ。心おきなく」
「どりゃ、さっそく、お仕込みに、とりかかろうぜ」
たちまちに見る七名の影は、松林の下蔭から、それぞれが江州車(手押し車)の七輛を押し出し、なんの憚りもなく、楊志、執事以下、十七名の者が、現にいるところへ、どやどやと寄ってきた。
そしてすばやく、車の上の棗漬をみな谷底へぶち撒けだした。そして、それへ代るに、さきに強力の兵が、地へ下ろして並べておいた十一箇の行嚢を、一台に二箇、或いは三箇と積んでしまい、すっぽりと布覆をかぶせるやいな、
「さあ、すんだ。あとは野となれ」
「あとは烏と野獣のお供えもの」
「おさらば、おさらば!」
まるで凱歌の調子である。そのはず、梁中書夫妻から蔡大臣へ贈らるべき金銀珠玉は、ここに道をかえてしまったのだ。それにしても、江州車七輛の布覆の下、十万貫の宝財は、そもどこへ運び去られていくのだろうか。
「あ? ……あ……。ああ」
楊志は、みすみすそれを、眼に見ていた。しかも、どうにもならないのである。どぼんと、頭は空ッぽの音がする。眼にはそれを知っても、視覚神経は、脳髄までも届いてゆかない。爪は、草の根をつかんでいたが、その手の甲へ、ダラダラ涎が垂れるだけだった。