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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「晁君はおいでか」

と、息も忙しげに、訪れていた。

荘丁の取次に、すぐ顔を現わした名主の晁蓋は、彼の姿を迎えるなり、日ごろのように、

「やあ、どなたかと思えば、宋押司さまでしたか。さあ、どうぞ」

「いや今日は、客間へなど通ってはいられない。晁君、どこか人なき小部屋でちょっと話したいのだが」

「えらくお急ぎですな。……さ、ここなら誰もまいりません。して、お急ぎの件とは」

「晁蓋どの!」

宋江はじっと眸を澄まして、彼を見つめた。思いなしか、その眼底には涙があった。晁蓋も、胸をつかれて、思わず、

「はいっ」

と、あらたまった。

「あなたは、えらいことをしてくれたなあ」

「えっ?」

「常々、私はあなたを、親身の兄のように思っていた。あなたもまた、よく人のお世話をし、村の公益を計り、東渓村の旧家としても荘院としても、恥かしくないお人として、諸人の信頼をうけておられたのじゃないか。……どうして今、私があなたを、見殺しにできようぞ」

「ど、どういうことです。仰っしゃる意味は」

「たった今、済州奉行所からの出張命令で、刑事頭の何濤なる者が、晁蓋以下六名の共犯者を召捕る手続きを県役署へ内申に来ておるのだ」