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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
すると、どこかで粋な漁歌が聞えた。見れば芦間隠れの洲の蔭から、ただ一人の漁夫が、こっちへ小舟を操ッて来る。
ぎょっとしたように、捕手の内のひとりが叫んだ。
「あっ、阮小五だ」
「なに、あいつがか?」
捕盗隊は櫓舟、櫂舟、棹さし舟、狩り集めなので船種もじつに雑多である。それが一令のもとに扇開して、小舟一ツを遠巻きにかかった。
阮小五は、櫓柄を片手に、けらけら笑った。
「ようっ、おいでなすったね役人衆。捕手と蝗は、あたま数で脅かすものときまってるのか。意気地なしめ」
何濤はみずから接近しつつ、
「うぬ、不敵な奴。……それっ、弓で射て取れ、弓で」
「おい、笑わしちゃいけねえよ。人民いじめの大官の手先め。てめえらこそ、盗ッ人役人というもンだ。覚悟をしろ、逆に召捕ってくれるから」
とたんに、彼の姿と小舟をつつんで、一せいに矢かぜが唸った。けれど同時にザンブとばかり水ばしらを宙に残して、阮小五の影はもう青い水中に透いて見え、怪魚のごとく泳ぎ廻っていたのだった。
「しまった。――逃がすな」
水へ向って射込んでも、矢は用をなさず、刺叉で掻き廻しても、投げ鑓を抛りこんでも、笑うが如き泡沫が一面ぶつぶつ明滅するのみである。