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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
……それでおめえ、すむのかい」
「家には、八十にもなる老母がいるんです。どうか一命だけはひとつ怺えておくんなさい」
「おやおや、泣キの手と来たぜ。どうしよう、弟」
「簀巻にして、舟底へ抛りこんでおこうじゃねえか。息の根をとめるなら、いつでもだ」
「よし来た。……じゃあ呼ぶぜ」
小二の吹く指笛が、水に谺してもの凄い。忽ち薄暮を破って数名の漁夫がむらがって来た。その者たちへ、蓆巻きにした何濤の身を預け、小二小七のふたりは、二そうの小舟に乗り分れて、また何処へともなく漕ぎ去った。
「どうかしてるぜ、今日っていう日は」
「おん大将の何濤まで行ッたきり雀で帰って来ねえや。一体どうしたんだろうな」
「あれ、いやな雲だぜ。こいつはいけねえ。空模様まで、ヘンてこになってきやがった」
星屑降るような宵だったが、忽ち芦のざわめき、波を捲く風だった。そしてそれとともに、ごうっと冷たいまばら雨をまじえた怪風が、とつぜん、真ッ黒な舟溜りの群れを、山のように揺り上げ揺り下ろした。
「あっ。南無三」
「舟と舟が、芋を洗うようだ。あぶねえ、あぶねえ。舟がぶち壊れるぞ」
まさに、危険はそれだ。舟べりがメリメリいう、櫓がくだける、梶が裂ける。