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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「……そうか。さぞ口惜しかったろう。しかも良人のわしにそれほどまで、貞操をたてていてくれたのか」

林冲はポロリと涙をこぼした。かかる男でも、泣くことがあるのかと思い、晁蓋や呉用までみな瞼を熱くした。

――春の訪れと共に、梁山泊に一舟の注進が聞えた。――再編成された官軍の捕盗船隊三、四百艘が、石碣村の入江から沖を埋めて、機を窺っているという報である。

しかもこんどの総指揮官は、済州奉行所付きの黄安という者で、手勢二千人、戦備も前よりは格段な物々しさであるという。

「さア、いらっしゃい。氷も解けたし、雑魚も蓮の根から泳き出す陽気だ。――こち徒にとっても、長い冬籠りの退屈醒ましにはちょうどいい折、いでや眼にもの見せてやろうぜ」

山寨の驍勇どもは、手に唾して待ちかまえた。――かくて、金沙灘沖の水戦は展開され、蕩たる白浪は天を搏ち、鼓噪は芦荻を叫ばしめ、二日二た夜にわたる矢風と剣戟と、そして雲に谺する喊声のうちに、さしもの官船数百隻を、枯葉のごとく粉砕し去った。

げにも皮肉だ。この一戦こそは、求めもしないのに、官から賊寨へ、わざわざ貢ぎの贈り物を運んできたようなものだった。