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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

どうか最前の悪タレは平にご用捨くださいまし」

腋の下に冷や汗をたたえているような詫び方だった。

「ご主人」

と、宋江は静かにかえりみて訊ねた。

「いったい此方はご家人か、それともご当家の食客か」

「なあに旅人ですよ。といっても、もう一年近くも家人同様に、わがままをいっている気楽者ンでございますがね」

「申しおくれました。名のるほどの者ではござんせんが」と、男も慌てて、同時にこう行儀をした。

「――てまえは清河県の生れ、苗字を武、名を松と申し、兄弟順では二番目の武二郎でございまする」

「ほ。清河県の武二郎、その武松さんとは――あなたですか。いやこれは奇遇、かねがねこの宋江も、お名まえだけは伺っていました」

「てまえ如きが、お耳にあったとは、いよいよもって、赤面至極です」

「が、武松どの。当所にはどういうわけでご逗留かな」

「どうも至ってやくざな身性で、故郷の清河県でちょっとした喧嘩をやり、そのため、草鞋をはいて、ここの大旦那のご庇護にあずかり、もう故郷のほとぼりも冷めた頃なので、近くお暇をと思っていると、持病の瘧。それでついまた、お厄介を重ねていたところでございます」