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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
こんなお客って見たことがない」
「冗談いうな。俺が飲むのはこれからだよ。もう三碗並べておけ」
それも飲み干し、あきれる亭主を尻目に、
「おいっ、もう三碗」
「げっ。……ま、お止しなすっちゃいかがですえ」
「俺を、ただ飲みして逃げる男とでも思っているのか」
銀子をそこに並べ、さらに肉を食らい、香の物をばりばり噛みながら、やがてやおら、
「ああすこしいい気もちになった。これが三碗ニシテ丘ヲ越エズの酒か。高価いものにつきゃあがった」
と、棒を片手に、ぶらんと軒を離れて行った。
すると、彼の後を追って来た亭主が呼んだ。
「もし旅の衆、旅の衆。どっちへ行かっしゃる」
「なにをいッてやがる。向いてる方へ向いて行くしかねえじゃねえか」
「そっちへ行っては、景陽岡にかかりますぜ」
「それが、どうしたと」
「途々、お上の高札が目にとまりませんでしたかえ。近ごろ景陽岡には、額の白い大虎があらわれて、たびたび往来の旅人や土地の者さえ食い殺されていますんでね」
「ふウむ。虎ッてえなあ、おめえんとこの店でよく暴れる奴のことじゃねえのか」
「ちッ、真顔で聞いておくんなさいよ。親切気でお止めしているんですぜ。