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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

――するとやがて、がさッと微けき木揺らぎがしたようだった。天地は寂とし、およそ鳥けもの、地虫の類までが一瞬、しいんと密まった感じである。それもそのはず、葉摺れを戦がしつつ、のそ、のそ、と巨大な身躯に背うねりを見せながら近づいて来る生き物がある。満身は金毛黒斑、針のごとき鼻端の毛と、鏡のような双眸は、

くん! ぶるる…… ぶウっ……

と人間の香を嗅ぎ知って、しきりに異様な戦意と欲情の昂奮を、尾さきにも描いている。

が、虎も怪しみを抱いたにちがいない。獣王はそのりっぱな体躯に似合わず、どこか小心恟々として平石のぐるりを何度も大股にめぐり出した。そして、武松の顔の辺で、ゴロ、と喉を鳴らし、前肢を突っ張ったせつな、今にも何かの行動に出そうな爪牙の姿勢をピクと見せた。けれど、虎はそれにも出なかった。とたんに、ふと眼をさました武松の眼と虎の眼とが、そのとき、らんらんと睨めあっていたのである。武松は内心ギョッとしたが、石その物のように身じろぎもせず、虎を睨めすえたものだった。

どう思ったか、虎はまた平石を巡りまわる。同時にその尾を窺って、武松もむくりと突っ立った。