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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
――武松もまたひざまずいて、この美しい嫂の絹縢りの可愛らしい沓の前に額を沈めた。
「初めてお目にかかります。途々、嫂さんのことは兄からも伺いました。兄は今たいそう倖せらしく、久しぶりで会ったこの武二郎までうれしくてたまりません。それでついとつぜん一しょにお邪魔してしまいましたが」
「あら、そんなお堅いことを仰っしゃらないでください。……親身な兄さんのお家ですもの。さあ、どうぞもうお気らくに」
「金蓮、お前も評判を聞いてるだろうが、あの景陽岡で虎退治をした人というのは、この二郎なんだぜ」
「へえ、では今、大人気な県城の都頭(伍長)さんは、この弟さんだったんですか」
「違うよ金蓮。虎を退治たもんだから、県の知事さんが、無理に弟を都頭に取立てたので、弟はこの街へ来る前までは、ただの旅人だったのさ」
「どっちだって、同じもんじゃありませんか。ホホホホ、ねえ二郎さん」
白珠に紛う金蓮の歯が笑みこぼれる。眼いッぱいな愛嬌というか一種蠱惑なもの、これが自分の嫂だろうか。これが兄の妻なのか。武松にはまだ身に沁みてこない。
「二郎。今夜はゆっくり泊って行っておくれ。いま何か買って来て、精いッぱいご馳走を作るからな」