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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
朝々、武大を稼ぎに追い出してしまうと、金蓮はもう翼を翻して隣の奥へ来ていた。この間じゅうから縫いにかかった白綾や青羅紅絹がもう裁ちもすんで彼女の膝からその辺に散らかっている。
「まア、なんて早い針運びだろう。金蓮さんみたいなの、見たことないよ、お世辞でなく」
「いやですわおばさん、そんなに褒めちぎッちゃあ、はずかしくって」
「だって、見事だもの、ほんとにさ――針も針だけど、指といったら、まるで何か美しい蝋細工が動いているみたいだし、こう覗き込んでると、わたしだって、この可愛い襟くびへ食いつきたくなっちまう。……薬種問屋のあの旦那が、ずいぶんお目も高いお方だのに、精いッぱい賞めておいでたのも無理はないね」
「あのお方、なにかわたしのことを、仰っしゃってましたの?」
「ままになるならって」
「あら、あんなことを」
「きっと、お淋しいんだよネ、あの旦那も。お金はくさるほどあるけれど、おかみさんには死に別れたし、お子はないしさ。いくら番頭や親類があったって」
「おだやかなよいお人柄ですのにね。……おや、おばさん、どなたか表に」
「あら、旦那らしいよ。噂をすれば影。……おお旦那、いらっしゃいませ。