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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
事を好む人間はどこにもいる。何を教えられたか、哥は眼をまろくしてよろこび、さっそく果物籠を頭に乗ッけて、もう歩き初めたものである。
「小父さん、巧くいったら、小父さんちの台所へ、雪梨を一籠タダで届けるぜ。おらもおふくろに金を見せてよろこばしてやれるもンなあ」
「ばか。往来中だぞ。大きな声をしねえで、早く行ってみろ」
「あいよ」
紫石街の街端れ、彼の裸足の軽ろさでは、またたくまだった。
見ると。
茶店の王婆は、店さきの床几で糸を紡いでいる。隣の武大の家はといえば、あいかわらずな芦簾の掛け放し。人が住むとも留守ともみえないような静けさだ。「……ははん」と、※(「軍+おおざと」、第4水準2-90-23)哥は猿の目みたいな小賢しさで頷いた。
「おばあさん、こんちは」
「えい! びっくりするじゃないか、この子は。なんだよ素大ッかい声をして」
「雪梨を買ってもらいに来たんだよ。――今日はいい杏もあるしさ」
「また、おいで!」
「婆さんにいってるんじゃねえや」
「なンだって。じゃあ誰に売ろうっていうのさ」
「奥にいる旦那にだよ」
「だんな?」
「西門慶の旦那さんに買ってもらいてえんだ。