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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「あッ、もしやこれは兄の?」

「ま、お聞きなさいまし。あれは確か正月の二十二日。朝ッぱらから茶店の王婆がやってきて、隣の武大さんが亡くなりました。ひとつご検死のときはよろしくと、妙な口振り……。はてなと、ひと先ず手下を先にやっておき、手前はぶらと出かけて行くと、忘れもしねえあの紫石街の四ツ辻でしたよ」

「お。そして」

「すると、お役署前の生薬問屋、例の西門大郎とも呼ぶあの西門慶が、あっしを待ちうけていたような様子で、近くの酒館へ誘いますのさ。なにかと従いて行ってみると、この銀子一錠を差出して、武大の納棺のときには、一切、この唇にも蓋をしてくれまいかと――、いってみれやあまあ、その金は口塞ぎ。ははアんと、それでわかったが、しかし何しろ奴は役署きッての顔きき。そこでその場はヘイヘイと先ず呑込み顔で別れましたのさ」

「むむ。あの西門慶の奴がだな」

「案のじょう。それから検死先の家の二階へ上がって、武大郎さんの死体を調べにかかってみると、一見、ただの病死じゃあない。苦悶の形相は眼もあてられません。鼻や口にも吐血した塊りが残っているし、五体は紫斑点々で、劇毒の砒霜を一服盛られたナ……と、すぐ見当がつきましたから、こっちも途端に、腹を抑えて、ウウムと苦しんで見せたんですよ」