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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
元々、百姓は性に合わないといっている彼なのだ。家事はいよいよかえりみもしない。その荘院には、つねに百姓らしからぬ無頼のみを寄せ集め、ただ武勇を誇っては、遠近に喧嘩の相手と機会を求めてばかりいた。されば史家村の九紋龍史進といえば、この頃、泣く子も黙る名となっていた。
山波の影は遠く望まれるが、人里からはどの辺かよく見当もつかない彼方だ。ここに、華陰県の山また山の奥、少華山とよぶ一峰がある。
天地は人間のもの、その人間は生きものだ。おれたちがここに山寨をむすんで、こう生きているのに、何の不思議があるか、と誇りでもしているように近づけば、その少華山の山腹にも、さかんな人煙人語があるのであった。
「おい楊春。どうもこの頃は、さっぱりじゃねえか。……陳達はまだ岩窟の中で寝こけているのか」
「そうらしいて。なんでも奴あ三日ほど前から、蒲城県の方へ降りていって、何かうまい仕事はねえかと、狼のように嗅ぎ歩いたっていうんだが、ゆうべおそく手ぶらで帰ってきやがった。よくよく下界も飢饉年らしい」
「そうじゃあるめえ。おれたち山寨の六、七百人もが、ついこの春までは、下界の貢ぎで悠々と王者みてえに食ッてられた世間じゃねえか。