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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

特に武松が眼を熱くしたのに、例の“隣近所ノ衆”が見送りのうちに交じっていたことだった。それさえあるに、中の一人が出て来て、武松の手へ、

「どうか、これはあなたが、お旅先でお費いなされて下さいまし。とても私たちには、冥利が悪くッて、お頒けいただくなんてことはできません」

とかなりな額の金を渡した。

「えっ? ……これはなんです」

「お兄さんの家と、悉皆の家財道具を売り払ったお金ですよ。あなたは、近所の者で頒けてくれと仰っしゃいましたけれど」

「だれも取ってくれないんですか。それじゃあ皆さんへ、ご迷惑のかけッ放しになってしまう」

「とんでもない。お科めなしの言い渡しだけで、みんなほっとしておりますよ。考えてみれば、私たちも、武大さんにとって、近所効いがなかったというもんです。なんでその上、こんなお金をいただけましょう。どうかまあ、孟州の刑地でも、お体だけは大事になすって下さいまし」

牢城の管営父子、武松を獄の賓客としてあがめる事

季節はもう六月の初夏だった。武松、つらつら思うに、ここ七、八十日は悪夢の如く過ぎていた。人生測りがたし。明日はどんな日が孟州の先に待つことか。