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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
歓楽終って、月も傾き、人もすべて眠りに入った。彼は自分の小部屋で前後不覚に横たわっていたが、ふと目がさめた。――奥の方で、きれいな声が、一ト叫び、
「泥棒ッ……」
と、聞えたからだ。
がばと、武松は刎ね起きた。彼の主人思いな良心は、聞きのがしをゆるさない。長い廊を一足跳びに馳けて行った。すると奥庭の欄の階段に、玉蘭が倒れていた。玉蘭は指さして、
「あっちです。曲者は。……早く行って」
と、息も絶え絶えにせきたてる。
武松は身を転じて、大庭の暗い松林の中へ走りこんだ。とたんに、もんどり打ッたのは、蜘蛛手に張ってあった罠の一条に足もとをすくわれたものらしい。起き上がるまもなく、無数の衛兵に圧しつぶされ、うむもいわせず、高手小手に縛られていたのであった。
城鼓の乱打は枯葉を巻き、武行者
は七尺の身を天涯へ托し行くこと
一夜のうちに、観月の楼台の夢は、暗湿な奈落の穴の、現実と変った。
ここは孟州奉行所の地下牢か。
すべて、いまだに、武松自身には、不可解千万だったが、ぶち込まれるさい、奉行から読み聞かせられた罪状はなんとも心外で忘れえない。
其方コト。
日頃、総督ノ愛顧ニ狎レテ、トカク盗ミヲ働キ、ソノ※品ヲ、自己ノ小僕部屋ニ匿シオキ、十五日夜半モ又、夫人ノ深窓ヨリ金銀珠玉ヲ盗マントシテ、ツイニ衛兵ノ手ニ縛サレタリ