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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

あの男ですよ。清風山の賊のかしらは」

「なに、こないだおまえに危害を加えかけた山賊の頭っていうのは、あの黒奴か」

「そうですよ、忘れっこありませんわ」

劉高はびっくりして、下に控えている兵長へすぐ命じた。

「あいつは山賊だ。あの色の黒い男を召捕えろ」

あたりの異様な叫びが、自分へ迫る何かの予告と知って、宋江はとっさに、人を掻き分けて遠くへ逃げ走った。しかし、のがれ得べくもない。たちまち追いつかれて、五体は麻縄の縞目にされてしまった。

翌朝である。彼は官邸の一階下に引き出され、上の廊から劉長官の大喝をあびていた。

「賊の頭! つらを上げろ。……燈籠見物にまぎれていたら、誰にも分るまいと思っていたのだろうが、なんぞ知らん、天網恢々疎にして漏らさずだ。恐れ入ったか」

「おことばですが」と、宋江は夜来の沈湎たるおもてを振り上げて「――私は花長官の客で城県の張三と申す旅人、賊をはたらいた覚えはありません」

「だまれっ。清風山の追剥ぎめ。証人があることだぞ」

良人の言下に、嬋妍たる衣摺れとともに、廊口の衝立から歩み出て来た夫人が、柳眉をきっと示して言った。

「おまえ、お忘れかい! このわたしを」