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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「あっ、這奴は弓の名人※(感嘆符疑問符、1-8-78)」
身を、馬のたてがみへ俯っ伏せたすきに、すでに花栄の姿は雲林の裡に消え去っていた。
あちこちにおける部下と賊兵の小ぜり合いは、らちゃくちゃもない。彼は一たん兵を平野へ下げて兵糧をとり、再度山へ攻め登った。
「オオ。西の峰だぞ、あのドンチャンな銅鑼や鬨の声は」
しかし、秦明がその西の峰を、えいえい声で攻めて行くと、応えは谺ばかりだった。
「ヤッ、賊は東谷の向うです。谺のせいで、西に聞えたのかもしれません」
部下の注意に、きっと谷向うを見渡すと、なるほど賊の紅旗が見える。
「それ行けっ」
だが、道を急ぐだけでも、百難の思いがあった。細い杣道にはわざと大木を伐り仆してあり、枯れ柴を踏めば、陥し穴ができている。
その上、からくも沢を渡って、東の峰へたどりついてみると、何としたこと! ここにも人の気はないのである。森閑として春浅き樹海にはただ鳥の音が澄んで聞えるだけだ。
「くそうっ。この秦明を小癪な偽計でたばからんとするのだな。いまにみろ」
一ト息入れるまもなかった。またたちまち、百雷のような銅鑼の乱打がどこかでする。