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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
月もよし、桂の花影、ひとつ今夜は、心ゆくまで語ろうじゃありませんか。さあどうぞ、おくつろぎなすッて」
と、盞をあげ合った。更けるほどに、月は冴えを増し、露は珠を桂にちりばめ、主客の歓は尽きるところがない。談笑また談笑の沸くごとに、一壺の酒は空になるやと思われた。
そのうちに、ふと、史進も客の三頭目も、何かへギョッとしたらしく口をつぐんだ。広い土塀の外を囲んで、潮のような人馬の気配がひしひしとする。耳をすますと、こう聞えた。
「やあ史進、門を開けろ。開けねば蹴破るぞ。この荘院内に、こよい少華山の賊どもが会合しておると、訴人あって明白なのだ。四隣八隅、遁れんとて、遁るる道はない。賊を渡すか、踏み込もうか。いかにいかに」
「さては、訴人があって、県城の捕手が、襲せてきやがったか、花にあらし月に雲だが、こいつアちっと早過ぎる」
史進は、舌打ちして。
「お客人。なにも慌てることはない。しばらく、そのまま飲んでおいでなさい」
彼は酒席から走り出していった。
梯子をかけ、梯子の上から、門外の人馬へ何かどなった。おびただしい松明のいぶりである。十文字鎗、五ツ叉の戈、袖搦みなどの捕物道具、見るからにものものしい。