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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「ご恩に着ます」と、薛永は押しいただいて「いずれ自分も江州府へまいりますから、そこでまたお目にかかれるかもしれません。……どうぞ、江を渡る日もお大事に」

といって、立ち去った。

困ったのは、その夕からのことである。何軒となく木賃宿の軒に立ってみたが、三人の姿をみると、どこの旅籠でも、手を振るのだった。おそろしい覇の勢力ではあると、途方にも暮れ、舌を巻かずにいられなかった。

「これはいけない。道をかえて、本街道から郊外へ出てみよう」

しかし、たまたま見かける田舎旅籠でも、お断りはおなじだった。が、災難にしては小さいといえよう。宋江はあきらめてこよいは野宿とつぶやいたが、端公の李万は、ふと横道に見えた灯と旧家らしい屋敷門を見て、

「そうだ、素人家なら泊めてくれましょう。ひとつあそこへ頼んでみますから、待っていておくんなさい」

と、急にその灯を目あてに走って行った。

葦は葦の仲間を呼び、揚子江の“三覇”一荘に会すること

潯陽江頭 夜 客を送る

楓葉 荻花 秋索々――

これは白楽天の詩「琵琶行」のはじめの句だが、いまの宋江の身は、そんな哀婉なる旅情の懐古に浸りうるどころではなかった。