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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

と、わめいてやまない。

けれどやがて、老父になだめられたものか、あるいは自分で、兄を起しに行ったものか、どやどや母屋の棟の方へかくれてしまった。

宋江は、「すわ、このすきに」とばかり、二人の端公を揺り起し、わけを語って、

「一刻もここにはおられぬ。ぜひもない、夜道をかけて逃げのびよう」

と、せきたてた。

李万も張千も仰天して、宋江の首枷などは手にかかえ、窓を破ってころげ出した。あとはしばらく無我夢中といっていい三つの影。――田舎道、野道、葦の原、そして鉛のような水の光は、いつかもう揚子江の江畔なのか。

うしろからは、みだれ火が迫っていた。十人以上な喊声だ。ピューッ、ピューッと指笛を鳴らしてくる。気づかれたのだ、南無三である。

「天よ!」

宋江は走りつつ祈った。息がきれる。うしろの足音は早い。たまらなくなって水浸しになるのを覚悟で葦の茂みのなかへ隠れこんだ。ふるえながら葦の根を這った。

「畜生」

「どこへ失せやがったか」

恐怖の一瞬がすぐそばの堤を馳け去った。――端公二人は、泥亀みたいに首をもたげて、

「しめた。宋江さん、すぐそこの入江に舟がみえる、救いの舟だ」