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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
李逵に叱言もいわない。いずれおちついてからいうつもりだろうか、先に立って、江州の水辺へ道をたどり、
「宋君、白楽天の古跡を見てみますか。なんならご案内いたすが」
「琵琶行のゆかりの地ですな。それはなつかしい」
「彼方の川ぞいに、その琵琶行にちなんだ琵琶亭という茶屋がある。いまは秋ではないが晩春もまたなかなかです。ひとつ、そこで一ぱいやりましょう」
はやくも宋江の旅情に似た胸には、淪落の女が夜舟に奏でる絃々哀々の声が思い出されている。が、さて、その夜彼が味わったものは何か。もちろん、過去にはあったそんな風雅ではない。琵琶亭そのものも人間も、すべては現実の腐爛と濁流中のものだった。
雑魚と怪魚の騒動の事。また開く琵琶亭の美酒のこと
名所旧蹟地には茶店や料亭は付きもので、またそれが点景の風物にもなっている。琵琶亭などもまさにそんな画中の水亭だった。画中の客となった心地である。
「宋君。ご存知でしょうが、ここで飲ませるのが、純粋な江州産の銘酒ですよ。つまりこの芳醇ですな。天下の酒徒なら“玉壺春”の名を知らぬものはありません。江州は米所であるうえ、水も佳い地方のせいでしょうか」