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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「百も合点だ、問屋のおやじが来たら、黒旋風の李逵さまのお買上げだといっておけ。もらって行くぜ」
「あっ、この野郎」
五、六人は一せいに組みついたが、ほとんど彼の一跳躍に刎ねとばされ、彼はすでに無数の群舟のなかを、あっちこっち覗き歩いていた。
「おやおや、どの舟にも魚はねえぞ?」
そのはずだった。魚の貯えてある舟底の魚槽は、船尾を竹網仕切りにして、江の水が自由に浸すようになっている。――それを取り外しては覗き込んでいたのだから、魚はよろこんでみな一瞬に逃げてしまったはずだった。
それを見つつ黒山になっていた岸の人影は、
「ああ、見ちゃいられねえ」
「もう、おしめえだ!」
と、嘆息を放った。そしてついに衆のいきどおりをこめた声が「わあッ」となって、櫂、水棹、水揚げ鈎、思い思いな得物を押っとり、李逵へむかってかかって来た。
しかし李逵にとっては、一杯機嫌の景物だった。まるで雑魚の踊りを掻い潜っているようなものでしかない。――ところへ、事の次第を聞いて彼方から飛んで来た六尺ゆたかな色白な壮漢があった。これやこの漁師仲間で、問屋さんと敬われている旦那であろうか。
袖口だけに刺繍のある裾短かな繍の上わ着、洒落者とみえて、黒紗の卍頭巾には、紅紐で結ッた髷が紅花みたいに透いてみえる。