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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

憂心は熱く 涙は冷ややか

こころざし成るの日は笑うべし

黄巣も丈夫のかずにあらずと

「城県人宋江作」

「むむ、久しぶりでものを書いた」

筆をおくと、彼は椅子に返って、片手に杯を持ち、片手の指で木琴を叩くように卓を弾き、小声でそれを吟じてみた。そこですっかり気分をもち直し、やがて勘定を払うと、踉々蹌々、元の道をもどって行った。――その孤愁の影、多情多感なその日の彼は、あとで思えば、げにも宋江として珍しいことだった。牢営内のわが部屋へ帰りつくやいな、前後不覚、翌朝までぶっ通しに眠って、前日の墨戯のことなど、ほとんど記憶にもなくなっていた。

ここに無為軍とよぶ田舎町がある。

江州のすぐ対岸で、江州府の大街とは絶えず通船が通っており、また黄文炳のような物持ちとなると、これは洒落た自家用船で、いつも江州大城へ出向いていた。

黄は、非役の閑職だった。

そこで無為軍に美邸をかまえ、ずいぶん贅沢な生活ぶりをやっているが、どうして、なおまだ内には野心勃々たるものがあるらしい。その証拠には、彼が四時の珍しい土産物を積んで行くさきといえば、つねにきまって、江州奉行閣下蔡九の私邸であった。