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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

或いはまた、なんぞそのお方のお噂でもご承知はありませんか」

「うんにゃ……」と、提轄はヒゲ面を横に振ったが、ぎょろっと見つめて、

「王師範は当所にはおられんが、しかし、あんたは、もしや史家村の史進じゃないのか」

「えっ、どうしてご存知なんで」

「なるほど、聞きしにまさる者だ。貴公のことは、もうかねがね聞いておる。また、お訊ねの王師範も知らんではない」

「失礼ながらご尊名は」

「経略府に勤務する提轄で、姓は魯、名は達」

「魯提轄と仰っしゃるか。いや初対面とも思われない。こりゃどうも」

「そうだ、こんな縁を、かりそめごとにしてはすまん。どうだ、茶ではつまらん。どこぞで一献あげたいと思うが」

「ありがとうございます。しかし王師範は、いったいどこにおいでなので」

「この渭州の守護は、延安府の経略使閣下のご子息が当っておられる。貴公が会いたがっている王師範は、たしか、閣下をたずねていったお方だろう。たぶん今でも延安に居るよ」

「そう伺って、ひと安心した。では、おことばに甘えて、お供いたしましょう」

「おやじ」と、魯提轄は、憲兵らしい顔をきかせて「――茶銭はおれにつけておけ」

二人は肩を並べて往来へ出た。