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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

城隍廟のそば、観音庵の家にもどると、彼はすぐさま身支度にかかった。胸に銀甲を当て、琥珀色の袍に、兜巾をつけ髪をしばる。

足ごしらえは八ツ緒のわらじ、膝ぶしに咒符を結いつけ、仏神の像を鞍皮に画いた馬に乗り、進物籠を載せて、即日、江州を立って行った。その迅きこと、霧に駕し、雲を排い、飛鳥にことならず、といわれていた通りである。

また神行の法は、ときにより馬も用いず、その健脚にまかしても、常人の十倍も走ると信じられていた。つまり道教の道術の一つか。先々の旅籠でも、金紙銀紙を焼いて祭りをなし、身は精進潔斎、呪文修法、種々あって、ほとんど道中では寝るまもすくない。

はや、ここは山東の一角。

芦と平沙と、渺として、ただ水である。

戴宗は、馬を降りて、とある水辺の一旗亭を覗いた。そして一ト息入れ、

「おやじさん、酒も飯もいらん。葛湯でもくれないか」

「なに、葛湯をくれと。冗談じゃねえ。そんな病人の飲むようなものはねえよ。ここは居酒屋だ」

「それは分っておるが、ここ何十里一軒の人家も見ない。では野菜汁でも煮ておくれ」

なおまだ、酒屋の下男は、ぶつぶついっていたが、その間に、外から戻って来たのがじつはほんとの亭主とみえる。