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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

彼はついに持ち前の癇癪を起し、片足で床をどんどんと踏み鳴らしながら呶鳴った。

「やいこらっ。給仕人」

「へい。四角のお代りですか」

「ばか野郎、いくら飲んだって、そばからすぐ醒めてしまうわ。なんだい隣部屋の雨だれみたいなベソベソは」

「どうもその……。あいすみません。お耳ざわりになりましたか」

「あたりまえだ。貴様にだって神経も耳もあるだろうによ。お連れしたわが輩のお客にだって相すまん。女だろ、あの泣き声は」

「酒楼あるきの歌唄いの親娘なんでございますがね」

「ふウん。では貴様が弱い者いじめして泣かせやがったな」

「ご、ご冗談を。……それどころじゃなく、まだ夕方の灯にも間があるしと、隣の部屋で点心(菓子)などをやって宥っておいたんですよ。すぐ追ッ払ってまいりますから」

「待て待て。貴様でさえ可哀そうだと思ってるものを、追ッ払わせて、それでわが輩の酒が美味くなるもんか。連れてこいっ、ここへ」

「かまいませんか。親父付きの娘でございますぜ」

「たわけめ。色気などじゃない」

――油じみた境の帳を割って、やがて連れられてきた歌唄いの父娘を見ると、もちろん夜の町でよく見る貧しげな流シの芸人。