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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
宋江は、はっと、ひれ伏した。その姿へ、もういちど、女神の声が、こう聞えた。
「いつかは、いずれまた、天上の玉帝さまの御園でお会いいたしましょう。くれぐれも、下界のご宿命を、つつがなくお果たし遊ばしますように」
……とたんに。
宋江は心のどこかで「あっ」といった。あたりは碧黒い波間にみえ、二匹の龍が、自分に戯れからんでくる。自分は恐くて、逃げもがき、もがくうちにゴク、ゴク、ゴクと水を呑んだ……。……と思ったせつなに、はっと眼をさましたのである。
すべて、南柯の一夢であったのだ。
「……ああ、夢だったのか」
ぐったりと現し身を見出したが、夢にしても不思議であった。黄紗にくるんだ三巻の天書は膝にのっている。またしかも、掌には三粒の棗の核子を握っていたし、口のうちにも、馥郁たる酒のかおりが残っていた。
「はてな。おう、夢にして夢にあらずだ。これこそ、霊験とか、また、よくいう夢想のお告げとかにちがいない。――すると自分の宿命は?」
彼は、もう何か、怖れるものもないように、そこの厨子を転び出て、廟の外に立ってみた。そしてそのとき初めて、廟の額に、金碧あざらかな四文字をはっきり見たのであった。