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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「まあ、まあ」と、宋江はその背をたたいて「そう泣くなよ、李逵。その気もちは、他人のわしにもうれしいものだ……。だが、統領、軍師以下、みな難色を示しておられるのは、万一のばあいを怖れるからだ。……もしきさまが、わしのいう三つの条件を、かたく守ると約束するなら、宋江からご一同へたのんでやるが」
「ど、どういう約束ですえ? 三つの条件とは」
「第一には、道中一滴の酒も飲まないこと」
「ようがす! やめよう!」
「第二、きさま一人では、何をやらかすか分らぬゆえ、蔭の者一人をこっそり尾行てやるとする」
「それも合点だ。して第三は」
「君がお得意の得物――あの二つの板斧だが――それは帰泊の日まで、呉用軍師のお手許へ預けてゆくことだ」
聞いていた一同は、大いに笑った。おそらくそれだけは手放すまい。李逵にすれば、抱いて寝もしたい子みたいなもの。と思っていたが、李逵はそれもまた約束した。こうなっては、宋江の口添えにもなることだし、彼の願いは一同で承知してやるほかはない。
こういういきさつから李逵もまた、やがて大寨の友としばしの別れを告げ、その故郷、沂州沂水県へと、野太刀一本の身軽な姿で、旅立って行ったのだった。