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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「お早う。誰だ? おめえは」
「やいっ。知らねえのか。このおれさまを」
「むりをいうなよ。知るはずがあるもんか。つらに鍋ズミを塗って、赤帽子ってえ恰好から見ると、ははん、百丈村の村祭りにござッた旅芸人の道化役者か」
「野郎、酔ってるな。身ぐるみおいてゆけ。これを見たら分るだろう」
「ほう、両手に二挺の板斧とおいでなすったね。えらい物をお持ちだなあ。して、お名まえは」
「百丈村の鉄牛を知らねえのか。いま名の高え、黒旋風李逵たあおれのこった」
「へエ。おまえさんが?」
「おうさ。そう聞けば、十人が十人腰を抜かすのに、てめえは馬鹿か、よそ者か」
「俺はいったい誰だろう、さあ分らなくなっちゃった。ひとつ、当ててみないか、偽鉄牛、いやさ偽李逵」
「何だと、偽李逵だと」
「だって、よくこのつらを見てくれよ。俺の在所も百丈村、あだ名は鉄牛、もひとつの名は、黒旋風の李逵っていうんだ」
「ひぇっ」
「おもしろい。どっちが真物か、賭けと行こう。さっ命を賭ったぜ」
「ご、ごめんなさい。……だ、旦那」
追剥ぎはヘタッと露の中に坐ってしまった。そして腹を抱えて笑いやまない李逵の姿を仰いで、米ツキ蝗みたいにお粗末な手をあわせた。