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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

――途方に暮れていた宿屋住居のこの父娘にも、まるで地獄に仏のような親切者があらわれた。

世の中にはこんな親切なお方もあるものか、と拝むばかりに信じさせておいたところで、男は宿屋の亭主をつかって、妾になれと、半ば脅迫じみた話をもちかけた。ぜひなく身をまかせると、次には、家に入れて家具衣装も揃えてやろうが、それにはお前という者の体に大きな資本をかけることだ。身代金三千貫の証文を書けという。

ところが、身は引取ってくれたものの、本妻というのは老虎のような強い女で、三月ともたたないうちに、その家からいびり出されてしまった。それのみか、衣服一枚くれるでなし、もちろん、先に書かされた証文の金など、鐚一文もくれはしない。

あまっさえ、その後となると、こんどは男が空証文をたてにとって「――先に渡した身代金を返せ」という強談判だ。宿の亭主も事が嘘なのは、百も承知のくせにして、ぐるになってか、高利の日金貸みたいに日々、父娘を責めたてる。しかも父娘はこうして夜な夜な渭州の紅燈街に、儚い四ツ竹と胡弓を合奏せて、露命もほそぼそ凌いでいるありさまなのに、塒に帰れば、稼ぎの七分は、まず鬼の手に搾取されてしまう始末。