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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「お……。ここは麓の降り道か。じつアな土地の衆、ゆうべ沂嶺の上で、連れていたおらの大事なおふくろを、虎に啖い殺されてしまってさ」
「げえっ、沂嶺を越えて来たって。それじゃあ、啖い殺されねえ方が不思議なくらいだ。沂嶺の虎といったら、泣く子も黙るによ」
「そいつを、牝雄二匹、子を二匹、叩っ殺して降りて来たところだ。おふくろ様のかたきを打って」
「やいやい、黙ッて聞いていりゃあ、ほらもいい加減に吹くがいいや。むかしの李存孝や子路だって、たった一匹の大虎を退治してさえ、一世にその名が売れたんじゃねえかよ。なんで四匹の虎を……。あはははは。この旅人は気が変らしい。気狂いだんべ」
「勝手にしやがれ。嘘だと思うなら、嶺の上にある泗州大聖の祠からひがしの、林や洞穴の近所をよく見て来てから物をいえ」
李逵は腹が立った。腹立ちッぽくなっていた。老母を亡い、五体に虎の生血を浴び、妙に、虚脱と空腹の中間にあったのだろう。関っているのも馬鹿馬鹿しくなり、蹌踉として、なお、麓道を降りつづけていた。
ところが、麓の村を見た頃である。さっきの猟師たちに、なお里人数名を加えた一団が、
「おうい、旅の人、旅の人」