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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「やいやい捕手。後生だから、俺にも一杯のませてくれ。こうしているから、この口へ、一杯流し込んでくれ」
それは朱富の方へ言ったのだった。朱貴は見えないが、朱富がいる以上、何らかの計で、自分を助けてくれるつもりだろうと、暗に、反語をわめいてみたのである。
「ふざけるなッ極悪人め。飲みたければ、てめえにはあとで、溝の孑孑でも飲ましてやるから静かにしていろ」
朱富はわざと罵声を投げた。それを聞くと、兵どもはゲラゲラ笑って、口々の呶罵を肴にまた飲んだ。李雲が、列へもどれ、と命じてもなかなか酒瓶の周りを離れようとはしない。
するうちに、一人の兵が「あッ、野郎っ」と街路樹の蔭で絶叫した。いや、とたんに仆れていた。振り向いた大勢の眼もすべて一瞬「――あっ?」といっただけで、あとは異様な静寂がみなぎり渡っていた。――なぜなら、李逵のそばへ寄って行った一人の男が、彼の縄目を解き、その手へ野太刀をわたしていたのである。これは猛虎の檻を開けてやったようなもの。さらにはまた、野太刀を抜いた猛虎も、男とともに、のっそり、のっそりこっちへ歩き出している。
「朱富。行こうか」
李逵の縄を解いた男は、朱貴であった。