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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
――まアいいや、爺さん、十五両もありゃあ、宿屋払いをして、あとを路銀に国へ帰れようが。……あれまた、シュクシュク始めやがったぜ。よせやい、湿っぽいのはわが輩、大の禁物だと断っているじゃないか。さあさあ、これを持って今夜は流シも休み、早く宿へ帰って身始末の算段でもしておきねえ。なアに宿の亭主が何と吐かそうと、そんな心配は一切するな。わが輩がまた明朝、宿屋の魯家を覗いてやるからな」
これで、さっぱりしたのだろう。金翠蓮父娘が何度も伏し拝んで立ち去った後も、三人は灯ともる頃まで、快飲していた。そして蹌踉と夜の街へ歩き出ると、やがて四ツ辻で、
「――ではまた、いつか会おうぜ」
と史進、李忠、魯提轄、各※(二の字点、1-2-22)帰る先へ袂を別った。
翌朝のことである。――魯達はもう例の憲兵服を纏った偉躯を場末町にあらわして、安旅籠の魯家の入口に立っていた。
見ると、軒下の手押し車に、小さい荷梱や食器籠やボロを包んだ一世帯が、積んである。「さては翠蓮父娘が旅立ちの荷物だな」と、何か安心されたのもつかの間で、奥の方から亭主の喚き声につづいて、翠蓮父娘の詫び声やら悲鳴などがガタガタ聞え出した。