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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「ご主人は」

「こん夜は、宿直なので、失礼させていただきますって」

「それはそれは。じつはこんど、山内に施餓鬼堂が建ちましたので、ぜひご主人のおゆるしをえてあなたにも一度ご参詣をねがいたいとおもっていましたが」

「ええ、ぜひ伺いますわ。いまの主人、わたしの出歩きなどは、頼りないほど、ちっともお構いなしですもの。……それ母が亡くなったときも、血盆経を上げていただいたままでしょ。その願ほどきだってしなければなりませんしさ」

そのとき、女中が茶を運んできた。巧雲は茶碗を受けて天目台に乗せ、碗の縁を白絹で拭いた。そして、如海へささげ出すと、如海の指と女の白い指とが、碗を媒だちにして触れあった。そのあいだ、とろけるような眼にとらわれた女の眼もとは茶わんの中の茶の揺れみたいに何とも危なッかしい春情気だった。

「……ははアん。これだな、法事の目あては」

石秀は覗いていた。

客間の窓の掛布が隙いている。ひょいと、如海がそれへ気がついて。

「や。あれは、どなた?」

巧雲もビクとした。

「ま、いやな人ね。石秀さん、おはいり。そんな所に立っていないで」

「ご家人ですか」

「ええ、主人の義弟ですの」